出会いと別れ
鏡のような夕暮れ
日が落ちたあと
しっとりした空気に
なんとも言えない桜の芳香
染井吉野も香りがするんだね・・
この静寂の時間に、どれだけ多くの生き物の声が
湖に響くことか・・
鷺、水鳥、牛蛙・・魚の盛んに跳ねる音
森の奥から響くコゲラの
気を突く音
春だけれどジージーと、虫の音も聴こえてくる
なんという宵の交響曲だろう
蒲生の池に夜の帳が下りて
水面に半月が映る頃
私は冷えた身体を、お湯で温めにいきました。
暗い中に、夜桜が浮かび上がっている
ほのかな灯りの、人も少ないここの温泉が
なんだかホッとする
帰ってきたみたいで。
ぬるい露天で、ぼんやりと浮かぶ夜桜をみようと外に出たら
先に入っている人がひとり。
色々お話ししているうちに
故祖父の同僚の奥さんだということがわかった。
私は熊本の温泉で家を尋ねられた時には
普段は神奈川で、ときどき
こちらにある故祖父母の家を管理しにきています
と言っている。
家の場所を話したら、
「まさか〇〇先生の・・!」となった。
祖父は英語の先生だった。
もちろん死んだ祖父とは歳が随分離れているが、
旦那様が祖父と元同僚の、国語の先生だったという。
お酒飲みの祖父と、やはりお酒を親しまれる国語の先生は
仲良しだったらしい。
あっけらかんとした祖父は、学校の同僚や生徒を、よく家に集めて
桜や紅葉の季節、お庭でゴザを敷いて、宴会を開いたそうだ。
奥様は、うちに迎えに来られたこともあるとか・・
その国語の先生も、他界されたとのこと
きっと向こうで一緒に飲んでますね、と奥さんと笑いあった。
国語の先生は、蒲生の池が大好きで、週末になるとよく通っていらっしゃったと聞いて
私も、「こちらに来た時には朝夕通っているんですよ!今夕も・・」
なんという繋がりかしら
「世の中、どうなるんでしょう!」と最初は嘆いていらした奥さんも
「今日は良い日だったわ!」と喜んでくれました。
キラリと光る金星のような出会いだったな。
ここの温泉の名前を一字とって、おキクと呼んでいた。
温泉の看板娘だったおキク(本当の名はタマ)も昨年末
向こうの世界に帰っていった
14歳、穏やかな性格に似合うように
食べなくなり、ミルクを飲まなくなり、
老衰で、静かに死んでいったという
心の祖母だったおキク
ありがとう、おキク
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migiwa☽ tanaka
