祥月命日 夜明けに咲く花

 








『静けき朝に音たて白き蓮(はちす)の花さきぬ』

石川啄木













誰からも離れて 孤独である


それが私の昔からの思い癖であった


寂しくて寂しくて仕方がない


誰かの言葉 何かの機会


かすかな足場を見つけては


足場から足場へ 綱渡りのようだ


そうやって、すがっていることで


かろうじて保っている


足場も幻なので


いつ逆転するかもわからなく あやうい




今では それをもう一人の「私」が俯瞰してみている


その思い癖は幻のようなものだともわかっている


それでも時々 何かをきっかけにして


その幻想にのまれそうになることがある






今日は ちょっとそんな感じである


そんなときは抵抗しても苦しくむなしい


仕方なくなんでも流されるままに


私を放って置く





「私」はそれを眺めてる


やがて揺れが静かになっても


幻のごとく消えていったとしても


キリキリとした胸の痛みだけは


不思議に残っている



















ゆうちゃんへ手紙






しばらく熊本に行ってたよ


毎晩、眠る時、今日みた美しい夕暮れ


光る雲、優しい月の輪を


ゆうちゃんに届くように心に描いてみたけれども


途中で眠ってしまったりして


なんだかちょっといい加減だったかな


ちゃんと印象が、伝わったかな













ゆうちゃんが逝ってしまって


一年になるんだね


一年前のちょうど今頃、私は


湖で満月を描いていたことは、もう何度も言ったよね




明け方に逝ってしまったゆうちゃん


ゆうちゃんは明け方に西に沈む


明るい月に、気づいていたのかな











お墓は、たぶんまだみたいだし


キリスト教だったし


お嫁に行ったのだから


こちらでは特に祥月命日の何かをすることもない












本当いうと、それどころか


この世にいないって


やっぱり今でも信じられない


お墓ってなに?


突然だったから


後遺症としては、リアリティーがどこまでも薄い

 

信じられない


死んだなんてまるでリアリティーがない















テレビのニュースを信じこんで


自分の目でみたように言う人がいるじゃない?


まるであれみたいだよ




最初の電話も


十年ぶりくらいに実家に寝泊まりしたことも


暑い日の告別式も、火葬場も、何もかも一種の映像みたいだった

 

わたしの感覚では、どこかで生きてるよって方がリアルだもの

























夏の熊本、滞在最終日に祖父母のお墓に立ち寄った


大地を焼くような日差しと、猛烈な暑さでクラクラした


ほんの少しの時間、寄っただけだったけれども


おじいちゃんとおばあちゃんに少し、心の中で報告した


普段は、「姉妹だからある意味対等、罪悪感はない」


と強がっているけれども


祖父母にはただ、「ゆうちゃんを守れなくてごめん!」


としか言えなかった


おじいちゃん、おばあちゃん、


あの、黒光りする髪を男の子のように短く切り揃えた


小さなゆうちゃんが………






そんなことは思っていないぞ!と思っても


口から出てくるのは「ごめん」だけだった。


頭も上がらず、涙も見られたくないので


早々に引き上げた





































私はゆうちゃんにとって、むずかしい人だっただろう


ゆうちゃんも、私にとってはむずかしい人だった


私も長い間、色々な架空のものと架空の格闘をしていた


お互い抱えているものがあり


衝突や距離を置くことも多かった


今生きていても、きっとお互いに距離をとっていたことだろう













それでも、私は綺麗で才覚あるゆうちゃんが妹であることを誇りに思っており


大好きなことに変わりはなかった


ゆうちゃんも私が大好きだったと確信している





























私たちの絆は深かった


それはお互いによくわかっていることだった








そうだ

 

はぐれちゃったんだなあ……

 

それとも迷子はわたしの方?


それでも、やっぱりこの世では


口にしなければ駄目なんだ


どう付き合って良いかわからなくても


距離を置いていながらも


「思っているよ、大好きだよ!」と


ささやかにでも、ほんの時々でも、何かの形で伝えないと駄目なんだ




..............












いつも


心にいちばん響くのは


鳥の声や、木々のざわめき

 

それらは責めず問わず

 

いつでも心の一番近くに寄り添っている



..............



 

夜明けの鳥のたかなき



夜明けに花と共に目覚めて

 

ツピーツピーツピー

 

朝靄の山に響き渡っていく




























弥生時代の遺跡から見つかった

2000年前の蓮の種を生き返らせて

育てたという古代蓮













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migiwa☽ tanaka