晴れの、別れのセレモニー
梅雨入り前の爽やかに風の澄んだ日、お別れ会の案内状がポストに入っていた。
目を通して、しばらく呆然としてしまった。
近年に、妹を送ったばかりで、向こう側の世界を確信していた私だったが。
やはり大事な存在が向こう側の世界へ旅立ってしまった事は、何かが抜け落ちてしまうようなそんな感覚があった。
私はしばらくその抜け落ちてしまった穴を眺めた。
もういちど目を通して、そのご案内状のすみずみに迄行き渡る、愛情と、思いやりと、さっぱり感。そして心遣いに、胸を打たれた。
その精神こそ、その人そのものであった。
あたたかい涙が溢れてきた。
その方とは、数回しかお会いした事はなかった。
私が出会ってから、すぐに役職を代替わりされたのだった。
それでも、その精神は、その方を囲むひとりひとりの仕事から、いつも感じていた。
細やかさときびしさ、思い遣り。
そして一番の精神といってもいい、今に生きる明るさ。
お付き合いさせていただいて、もうすぐ二十年になる。
最初は、パワーがみなぎるその人は、あまりご縁のないような人物で、すこし怖かった。
それでも、二十年近くお付き合いをさせていただき、どうしてこのような方々に出会えたのだろうと、いつも思う。
.....「あなた、素晴らしいわ!」
駆け寄ってきて、かけてくださった言葉。
最初にお会いした一声がその言葉だった。
きっと、作家の皆さん全員におっしゃられるのだろう。
それでも、二十代の私には、心からの本当の声に感じた。
画廊の会長というよりは、作品が好きで好きでたまらない、美術ファンの一人にみえた。
「オープニングの衣装は白に統一しましょうよ!ね、みんな白を着てくるのよ!」
会長の言葉のもとに、開催していただいた初個展のオープニングは社長、スタッフの方々、私自身も、白い衣装で統一した。
初個展の緊張の中、精一杯、刺繍の施された白いカットソーとシルクのスカートで身を装って出掛けた。
会場全体はオフホワイト、パートを分けてサーモンピンクにきれいに塗られた壁と、あしらわれた若い緑の灯台躑躅。
壁にかけられた墨絵に、白いスーツやワンピースのスタッフの方々がキビキビと動く。
まるで風が抜けていくような空間が、心地よかった。
会場全体で作品なんだなと、会長の思いを知った。
私も大切な人をこんなふうに送りたいと思った。
そう思った方々は多くいたのではないかと思う。
相変わらず何においても、素敵で心のこもったスタイルを作り上げる先駆者でいらっしゃるなと思った。
思いがけず、旧知のお客様と同席できた。
もしかしたらそれも、計らいだったのかもしれない。
楽しくお話をしながら、素敵な飲み物をいただいた。
小学校の同級生だったというお客様からは、最後のときの貴重なお話を伺うことができた。
.....
私の家の庭にはまだ若いが桜の木が一本ある。
梅雨に入り、木の瘤のところから、新しい枝が元気よく生えてきているのを見た。
若い葉はきれいなピンク色をしていて、ちょっと驚いた。
きっと、幹自体にも、あの美しい桜色を含んでいるのだな。
草木染めで桜色を染めるときは、花ではなく木の幹を使うという。
まるでこの方の中心に流れている色のようだと、思った。